ない仕事の作り方
みうらじゅん(著)
文春文庫
【推薦者】脊戸真由美/丸善博多店(福岡県)
ナイ、ナイ、ナイ、恋じゃない♪ナイ、ナイ、ナイ、仕事がない!
ちょうど一年前のこと。博多駅ビルに入っているうちの書店は、緊急事態宣言を受けて休業することが決まりました。「明日からよろしく」職場から電話がかかってきて、あっさりと何もない1ヶ月半がスタート。最初は「あっ、明日食べようと思ってロッカーに入れといたお菓子が腐る…」くらいの感想しかありませんでした。とはいえ、自宅謹慎では発散しきれないありあまる体力を消耗してやり過ごすべく、アテもない散歩という名の徘徊を、密を避けながら続けました。すると、とめどない不安にかられ、眠れなくなるハメに。立地により開いてる書店は通常営業、しかもかなり客数も増えてるようだ、ということに気づいたのです。一方、こちらは週に一度出勤して、お客さんのいない店で誰も買えない新刊を出す。一冊も売れてないのに次の新刊が届く。涙がでてきました。「まずい、まずいやろ、まずくない?ウチの店大丈夫?どうすればいい?不安。ふあんタスティック!」
頭に浮かんだのは「仕事がナイなら、作ればいいジャナイ」。いまこそこの本を読み直すとき。ゆるキャラ、マイブームなど数々の流行語を生み出してきたMJ(みうらじゅん)流のかなりどうかしている仕事の作り方です。
いままで誰も気に留めてなかったモノ・コトに注目し、これと決めたら、それが好きでたまらないのである、と自分を洗脳し、周囲が無視できないほどの異様な熱で、この人どうかしてる、と思わせるプレゼンをすることで、数々の仕事を作ってきたMJ。
巻末の糸井重里さんとのスペシャル対談で、糸井さんは、「みうらが拾わなくなったら、ただの風景に戻る。拾うからなにかになるんだ」と言います。わたしの周囲にも、きっと見落としてるものがあるのでしょう。下を向いて歩こうと思いました。
ププッと笑っているうちに、なんとかなるんじゃないかという気になってくる。のけぞるほど熱くどうかしているこの本を読めば、ショボい日だったとしても「でも、そこがいいんじゃない!」と面白がれる。明日もきっとどうにかなる。そう思えてくるのです。
●著者
みうらじゅん
●お礼のことば
今回は発掘していただき、ありがとうございます。しかも“超発掘”だということで、大変、御苦労をおかけしました。
それにあやかって、今後、みうらじゅん改め、ミイラジュンにしてもいいなと思っています。
1980年に一応、漫画家としてデビューしましたが、以降、世間的には何をしているのかよくわからない変人でやってきました。
たしか『「ない仕事」の作り方』は、そんな僕がデビュー35周年を迎えて、もう一度、自分が何をしてきたのかを再確認するために企画した本だったと思います。
はじめから“ない仕事”を目指した覚えはありませんし、出来れば“ある仕事”に就きたかった。しかし僕には、何かに夢中になると、つい“ない”ものを“ある”ように言ってしまう妄想癖がありました。それは、クラスメイトに「仏像ブームが来る!」と言い張って止まなかった小学生の頃から一向に治りません。
気が付くと、“ある仕事”から“ない仕事”にシフトしていました。問題はそれをどう“ある仕事”に見せるかです。そのためには、“僕が”という主語を“それが”に変え、より多くの理解を得られることが肝心です。
“ない仕事”とは、そうやって生まれてきたものでした。
賞に選んでくださった方々に改めて感謝の意を述べさせていただき、ミイラジュンの話は終わりといたします。ありがとうございました。
洋の東西、ジャンル、さらに刊行の新旧を問わず、書店員が「売りたい」と思った本、常日頃から思っている本を推薦。バラエティ豊かな本が集まりました。
【発掘部門とは】
ジャンルを問わず、2019年11月30日以前に刊行された作品のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと思う本をエントリー書店員が一人1冊選びました。さらにその中から、これは!と共感した1冊を実行委員会が選出し「超発掘本!」として発表しました。