無理難題が多すぎる
土屋賢二(著)
文春文庫
【推薦者】山口榛菜/岡本書店恵庭店(北海道)
●推薦コメント
毒にも薬にも、ならない一冊。
終業後、売り場の棚をぼーっと眺めていて、タイトルに心を動かされ、数年前に手に取った。ストレスの多い現代社会において『無理難題が多すぎる』そう感じている人は多いと思う。
そういう人たちにこそ、届いて欲しい、
哲学者の土屋先生による、特にありがたくはないお言葉の数々。
等身大で、クスリと笑えて、特に救われない。
でも、なんとなく、ダメな自分が、そのまま、
ダメなままで、生きていてもいいような気がする。
そんな優しいエッセイです。
昨年、お店で積んでみたところ、大変よく売れました。
手書きの看板に「毒にも薬にもならない」と、デカデカと書いたのに。
価値観が揺さぶられるような本も良い。
鳥肌が立つような本も、涙が出るような本も良い。
でも、そういう本ではないけれど、
なんか、ちょっといい気分になる。
何故かちょっと、心が楽になってるかもしれない。
そんな本が、沢山の人のもとに、届けばいいなあと。
そう思って推薦させていただきました。
●著者
土屋賢二
●お礼のことば
このたびは「超発掘本」に選んでいただき、まことにありがとうございます。
これまで皆勤賞からノーベル賞まで、一切の賞とは無縁でしたので、「受賞を潔しとしない清潔・孤高の文筆家」として生き、「失意の文豪」として死んでいこうと覚悟した矢先でした。しかも今をときめく「本屋大賞」の一つですから、大変光栄なことと思っております。
『無理難題が多すぎる』が「超発掘本」に選ばれるには、埋もれていなくてはなりません。この点、この本は、わたしのすべての本と同じく、発売と同時に埋もれてしまった本です。これに目をつけてくださった山口榛菜さんの慧眼と見識に敬服するばかりです。
山口さんは、おそらく新型コロナの影響で他にすることもなく、店内にポツンと売れ残った一冊をどう処分するか、困っておられたとき、手に取ってみて、これほど毒にも薬にもならない本が堂々と発売されていることに驚かれたのではないでしょうか。そのときは、宝石の山の中からただの小石を見つけたような、ツルの群の中にハキダメを見つけたような気になられたことと思います。
あいにく、新型コロナの影響で、この受賞がかすんでしまう恐れもあります。わたしの本はどれも、発売を待っていたかのように、震災が起きたり、パンダの子どもが生まれたり、芸能人の不倫が発覚したりで、売れ行きを阻まれてきました。なので不運にはなれています。売り上げには結びつかなくても、機会あるごとに受賞したと吹聴させていただきます。
今後も書き続ける勇気をいただきました。ありがとうございました。
洋の東西、ジャンル、さらに刊行の新旧を問わず、書店員が「売りたい」と思った本、常日頃から思っている本を推薦。バラエティ豊かな本が集まりました。
【発掘部門とは】
ジャンルを問わず、2018年11月30日以前に刊行された作品のなかで、時代を超えて残る本や、今読み返しても面白いと思う本をエントリー書店員が一人1冊選びました。さらにその中から、これは!と共感した1冊を実行委員会が選出し「超発掘本!」として発表しました。